あるそば屋で鍋焼きうどんを食べた。 新聞を読みながら食べていて、ふと気がついた。 以前、ここで食べた時も食べるのが可哀想になるくらい小さな身体に、着ぶくれした衣で包まれたエビが確かにのっていたはずだ。 しかし、今日の鍋焼きうどんのどこを探しても「えび天」が見あたらない。 世間では鍋焼きうどんには「えび天」が入っているのが常識であり通説だし、万有引力の法則よりも確かなものなのだ。 言い換えれば「えび天」が入っているから鍋焼きうどんと言える。 「えび天」のない鍋焼きうどんなんてクリープのないコーヒー、ヒモのないフンドシみたいなものだ。 ヒジョーに画竜点睛を欠く。
このまま黙っていようか…。 気が小さい私は迷った。 他に客が居ないのでオヤジは厨房から出てきて「なんでも鑑定団」の再放送を観ている。 その後ろ姿はまことに真剣そのものだ。 「あの〜〜」 声をかけると面倒くさそうにこっちを向いた。 「今日の鍋焼きうどんはえび天はないんですか?」 「エッ? 入ってない?」 私は鍋の底を箸ですくってエビはおろか衣もないことを示した。 オヤジはのっそり立ち上がり厨房に入っていった。 「ここにあった!!」
揚げたてのエビを別の皿にいったん置いて鍋が温まったら入れようとしたらしい。 それが「なんでも鑑定団」に気をとられすっかり失念してしまったのだという。 私が指摘しなかったら厨房に取り残された「えび天」はいったいどういう運命をたどったのだろう。 次回に「えび天」が二匹、なんてことはないだろうけど…。
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