名坂峠の分岐で、まず水を飲んでからタバコを一服。 これから下りる山道の先を覗き込むが暗くて様子が分からない。 下山口まで標準タイム30分と書いてあった。 ゆっくり行っても4〜50分くらいあれば着くだろう。 私は腹を決めて歩き出した。 ランプの明かりが頼りなく足元を照らす。 |
なんと狭い道だろう。路肩が弱く、木の根が張りだしている。
木の幹に掴まりながら、慎重に足を運ぶ。
暫く行くとザレ場が現れた。茫洋として踏み跡がはっきりしない。
コースを外さないよう周囲を見回しながら進む。
時々、後ろを振り返って目印になるような特徴のある物を確認する。
空を見上げても星が出ているわけでもなし、月が輝いているわけでもなし、
漆黒の世界が広がっているだけである。
考えてみれば、下界ではまだ夕方の時間だ。
月が照らすようになるにはまだ当分先である。
しかし、道だけは広くなったり、狭くなったりしながら、木の根や岩が相変わらず多い。
時間を見るともう40分以上経過している。
そろそろ、下山口に出てもいい時間だ。だが、舗装道路に出る気配はない。道標もない。
高度計を見ると確実に高度は下がっている。
下がっているのだがパニックになっている私には、これだけ下りてきたという実感がない。
まだこんなところに、という感覚なのだ。
どこかで道を間違え、グルグル同じところを歩いているのではないか、
という不安が支配する。
やがて、小さな木橋に出た。沢音が右から聞こえてくるようになった。
また、小さなコンクリートの橋を渡った。
これだけ立派な橋を見れば道を間違えているはずはないのだが、
頭が真っ白になっている私にはそう考える余裕はなかった。
もう1時間近く経過している。30分の行程をいくらなんでもそんなに時間がかかるわけがない。
道を間違えたんだ。
立ち止まって地図を出し、コンパスを当てて現在地の確認をする。
いくら地図を見たってコンパスを当てたって「間違っている」という先入観には勝てない。
引き返そう。私は振り返った。待てよ、1時間余りの道のりをどうやって引き返すんだ。
行くに行かれず、戻るに戻れず、進退窮まった! いっそここで一夜を明かすか。
ぼんやりしたヘッドランプの明かりが心細く揺れる。
ふと、先を見ると何か大きな黒い物体が浮かんでいる。
数メートル進んで確かめてみる。
それは紛れもない民家であった。
念の入ったことに手前には「棒ノ折山−大丹波」の指導標が!
無事、駐車場へ着いたのはちょうど午後の6時であった。
落ち着いていれば何てことはない下山道なのだが焦りと不安感が判断を誤らせるという教訓でした。
前日夕刊の天気図。 好天に恵まれたから良かったものの 天気が荒れていたら悲惨だった。 |
追記
この道を明るいときに確かめるため、97年10月28日同じコースを歩いてみた。
やはり歩きにくい道であることには変わりはなかった。
よくまぁ、こんなところを闇の中歩いたものだ。
コースタイムも1時間かかった。ガイドブックの30分は無理だ。
長文にお付き合いいただき有り難うございました