最後の車&後日談

mikeさん主宰のHP 「SENSE OF ONE」 山登り、ひとりでできるもん!
エッセイのページより転載させていただきました。
イラストもmikeさんの作品です。


最後の車

 先日友人と山登りに行ってきた。

 朝8時から登りだし夕方18時30ころ林道に下りた。都合11時間。予定以上に時間を食ってしまって、友人も「ちょっと時間かかり過ぎない」と思ったかも。

 しかしやれやれ、と言うことで対岸300m下の林道に下りようと道を探した。
 しかし見当たらない。別の下りルートの道標は立派なのがあるし、道は何本かあるのだが、下の林道にに行く道標がない。
 その林道への下り口が載っている地図は持ってこなかった。
 メインルートの地図は持ってきているが林道部分は山登りと以外と考えて持ってこなかった。
 と言うことは現在位置もイマイチ分からん訳で。家で見てきたその部分の地図もうる覚えで分散する道に確信が持てない。

本文とイラストは関係ありません。

 ちゃんとした林道もあることだし、歩いているうちに下に降りる道も道標と共に現れるのではないか、と言う意見で一致した。それで林道を下り始める。

 友人は今回随分と歩きまわったのでこれまた随分と疲れただろうな、と気使いしてしまう。そのため自然と足が速まる。

 早く道を探さないと…。対岸の林道に降りれば、すぐに車に辿りつける。
 そうすればクーラーで涼しいし、近くの商店までひとっ走りで冷たいジュースで喉も潤せる。
「今日は随分歩いてマイッタナ」などと笑って話せるというもんだが。
 しかし林道を行けども行けども下に降りる道は見当たらない。
 今回の山歩きでは、これでもか、と言うくらい道標があって、こんなにいらないジャンと言う気持にもなった。
 しかし最後のツメ部分の道標が無いと言うのはなんかアンバランスじゃないの。

 どんどん時は過ぎ、友人も歩き疲れたのかペースが落ち気味だ。

 1時間以上あるいて日も暮れた。林の切れ間から下の対岸がチラと見えた。
 彼方にはキャンプらしき光と林道を走る車の明かり。何と言うか、やや呆然。かなり行きすぎた感じだ。
 あそこに行くにはもと来た道を戻るか、この林道を大きく迂回して下の林道に出るかの二者択一だ。
 どちらにしても2時間以上はかかる。戻った場合、下に降りる道が判然としないから、このまま林道を
下ることにした。下の林道に合流する場所なら車が通るかもしれないので、頼んで駐車している自家用 車まで乗せて行ってもらう手もある。

 そこから20分程下ると大きな看板が現れた。
 どうもハイキング道の案内板のようだ。
 よく見るとこの登山道を利用してひと山越えて降りれば対岸の林道に着けるようだ。

 腹も減ってきて現在時刻は20時30分。
 下の林道まで1時間掛かる。
 友人はこのまま林道を下りたいと言うが、迂回して行くので2時間はかかる。

 そう伝えてこの登山道を登ることにした。

 登山を終えて、この暗いなかよりによってまた登山するとは考えてもみなかった。

 このA山は地図にも載っていて、一度は登って見たいと思っていた山であった。
 はからずもこんな暗い夜にこんな疲れ果てて登ることになるとは。巡り合わせと言うべきか。
 道は散策路と銘打ってあって道はしっかりしている。
 台風の影響か、夕方から吹き始めた風が、時折強風となってすごい勢いで吹きぬけていく。
 空は曇り空で、周囲の山はドス黒い色合いに浮びあがっている。
 友人にはあとからゆっくり登ってくるように言ったのだが、この風景と凄い風では相当不安になる。
 それで一緒に行動することにした。
 登るにしたがい樹林はまばらになり、視界が相当良くなる。
 しかし暗い雲が行き交う、こんな暗い夜に周囲の景色は不気味な光景と化していて、まともに見る気がしない。

 山を越え、下り坂を下るが、この時点で会話は尽き果てている。
 僕としては、道を間違わないように相当神経を尖らかして、会話の気力も沸いてこない。

 暗い道を長々と降りていたら突然林道が間近に見えた。その時点で車が二台通りすぎた。
 狂喜して上にいる友人に伝えて林道まで駆け下る。
 舗装された道にザックを置いて、倒れこむようにして休憩。
 道路は昼の暑さのため、まだかなりな暑さだ。


 現在時間21時30。

 これからマイカーまで歩いた場合2時間はかかるだろう。
 と言うよりも歩き疲れた気持だ。
 後から下りてきた友人も道路に座りこむ。
 どちら側に来る車にも頼んでマイカーまで乗せていってもらうよう頼み込まねば。
 しかし10分待っても一台も行き交う車はない。
 もうキャンプ場から帰る人はいないのかもしれない。

 とその時一台の車が上から下ってきた。

 二人で大手振って止まってくれるように合図する。
 車は軽自動車で手前でスピードを落としたように見えた。しかしその落としたスピードのまま行ってしまった。
 「オウ マイ ガッド」と頭を抱えたくなった。
 なんと言うか、両膝を落として両手を高く上げて口あいて…。
 以後無駄な行動をしないように道路に横になる。
 あと30分車がこなければ林道終点まで歩いて行くしかないな…。ジュース飲みたい。
 こう言う時にかぎって「ああ、あそこでなんとかしてれば冷たい飲み物飲んだり涼しい車で過ごせたのに」とか、「今日こなけりゃ今ごろ風呂入って、ビールのんでテレビ見れたのに」とか卑屈な気持ちが浮びあがってくる。

 15分も立ったろうか。逆方向からかすかなエンジン音が聞こえてきた。

 今一度狂喜。
 車は近づいてきて我等の目の前で止まってくれた。
 良くみれば先ほどの車じゃん。話を説明して林道終点のマイカーまで乗せてもらうよう頼んだ。
 車内の会話で、僕等を見つけた時、怪しそうな雰囲気だったのでパスしたそうな。
 しかし彼等はキャンプ場から下に向かう最後の車と知っていたので、僕等のことが心配で気を取りなお して戻ってきてくれたのでした。
 なんともはや、「オウ マイ ガッド」である。
 林道終点まで行ってくれたが、行き交う車は無かった。そしてマイカーに乗り友人のいる所に戻ったのは10時を大幅に過ぎていた。

 もしあの時車が戻ってきてくれなかったら、蒸し暑い夜道を2時間掛けてマイカーまで行き、友人のところまで戻ったら、12時を過ぎていただろう。

 ビバークも辛いけど、このような何でもないような所で道に迷って時間を食うと言うのも辛いもんだ。
 登山を終えて、気力、体力を一度脱力状態から引き戻すと言うもの並大抵ではない、と言うこともよおく分かりましたよ。
 今回一番感じたのは道を間違えたのがどうのこうのではなくて、最後の車にめぐり合えたと言うのが、なんかこう、ドラマっぽくて、感動的で「忘れかけていた狂喜乱舞」の気持になれたと言うことですか。
 車の彼等には本当に感謝しています。
 もちろん彼等の住所と名前をちゃんと確認しました。大至急、お礼の連絡と心づけを送る予定です。

後日談

 と、これで終わる予定だった。
 その数日後、友人からメールが届いた。
 心づけを送った翌日に彼の家から電話があったとのこと。

 電話の主は奥さんであったとのこと。
 その他簡単な説明と共に是非僕に電話を掛けてほしいと、電話番号も書かれていた。


 夜にもかかわらず、早速電話してみた。
 話を落ちついて聞いてみると。彼は現在、不倫相手と家を出たまま行方不明になっているとのこと。
 (その他、かなり込み入った長い話があったが、それは割愛させてもらいます。)
 それで、警察にも捜索願を出しているのだが、一向に手掛かりがなく、困り果てているとのことでした。
 初めて知ったのですが、警察に捜索願をだしたとしても、それだけでは警察は動いてくれないとのことでした。
 何か事件があって始めて動き出すと言うことなので、その間は内輪でなんらかの行動をしなくてはならないとのこと。
 奥さんには子供もいて、他にも困った問題があり、その解決のためにも早く彼と連絡をつけたいとのことだった。
 それで僕はその時の彼等の印象とか、身形、など、知っていることを話すことで協力した。
 複雑な事情があるわけで、その問題の中で一番の解決策は奥さん等が彼等と連絡をとることだと思っ
た。

 彼等の不倫の逃避行はいつまで続くのだろうか。
 奥さんの話によれば、金も底をついてきていると聞く。

 自分なりに、当て推量をしてみたが、そのことについては書くのはよそう。
 また、今後の展開についてもこれ以上書くのをやめる。

 ただ、彼等の車に同乗させてもらっている間、彼等はかなり明るかった。
 また屈託もなく、僕の話に耳を傾けてくれていたし、人の話を素直に聞く態度もあった。
 その辺のところは捨て鉢な状態ではなかった。


 何かの縁で彼等と遭遇し、助けてもらった。
 その後、その縁で彼の奥さんからの協力を頼まれた。

 彼等に助けてもらったことに対して、その恩返しに彼の奥さんに協力をするのも何かの縁だろう。
 彼等の善意からここまで波及してきたと言うことはことは、たぶん彼等がいづれ家族のもとに戻ることになると確信している。

 なんと言っても、僕等を見捨てずにはおけなかった訳だからネ。

2000/9/24 転載


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