日ノ出山の雷と集中豪雨 |
1995年8月22日 午前9時30分
通い慣れた日ノ出山を、この日は吉野梅郷から登ることにした。
樹林の間から太陽が照りつけ、風もなく蒸し暑い日であった。
上空には、白い雲がポッカリと浮かんでいる。
およそ1時間半で三室山(647)に到着。
展望もなく、山名もない。注意しなければ通り過ぎてしまうようなところだ。
やがて、鉄塔が立つ林道を交差して電波中継所を過ぎる。
いよいよ日ノ出山頂上直下の急登にさしかかった。
ふと気が付くと、見えていた青い空がいつの間にか一面雲に覆われている。
山の反対側から微かに雷鳴が聞こえてきた。
12時45分。日ノ出山頂に到着。
山頂には中年夫婦が養沢側に下りるところであった。
「こんにちわ〜!」と、高校生くらいの女の子がかわいい声をかけて、
私が今きた道を下りていった。
私は、誰もいなくなったあずまやで、コンビニのお弁当を広げた。
弁当をたいらげたころ、若い男がひとり二人と時間をおいて登ってきた。 「どこから登ってきたの?」私は聞いた。 男は「分からない」と言う。 彼らはTシャツ一枚で、靴も普段の革靴だ。 「お〜い! こっちだぁ!」などと下に向かって叫んでいる。 どうやら仲間がバラバラになってしまったらしい。 最終的に仲間は6人になった。 そのころであった。山間からわき上がってきた真っ黒な雲が見る見るうちに山頂を取り囲み、強い雨が地面をたたきつけた。 強烈な雨であった。6人の仲間と私は、あずまやの中央に固まり、無言で立ちつくしていた。 |
驟雨で周囲の立木が霞んで見えた。
あれだけ暑かった陽気が一変して気温が一気に下がった。
冷たい風が吹き上がってくる。
私は、ビニールカッパを着た。それでも身体が冷える。
ピカッ! と稲光がしたかと思ったら同時に耳をつんざく雷鳴が轟いた。
ビシッ! バシッ! キュ〜ン! 機関銃の掃射を受けているようだ。
ド〜ン! ベキバキッ! 落雷で立木が倒れる音だ。
次の瞬間、目の前で閃光が走った。
バキッ! 地面がえぐれ小石が飛び散り、硝煙が立ち上った。
同時に私の靴ひもの金具に火花が光った。
右足が熱くなり焦げ臭い臭いが鼻をついた。
1時間ほど経ったであろうか。怒り狂った天はようやくおとなしくなり、
雨は小降りになって、雷鳴は静かになった。
下山するなら今のうちだ。
さて、どっちに下りようか? ここから30分もあれば御岳山の売店街に出る。
空を見上げて判断を仰いだ。
雨も止んだし、雷も去った。
ここは計画通り、 来た道を引き返し、三室山から吉川英治記念館に下りよう。
私は、6人の男たちに別れを告げて立ち上がった。
これからさらなる災難が待ち受けていることも知らずに−−。