ある土曜日のことだった。 我が家の隣の工場の駐車場から猫の鳴き声がする。 「ミァー、ミァー」と、まだ赤ん坊のような声だ。 窓から下を覗くと白い子猫が暗闇に浮かび上がっている。 誰かが捨てたか迷い込んだのか…。 家中総出でフェンスを開け捕まえようとするが車の下に逃げ込んでしまう。 近所の猫好きが集まってきた。 皿にのせた餌を差しだし、 「猫ちゃん、おいで、おいで」とおびき寄せるが子猫は人間を嫌って工場と塀の隙間に逃げ込んでしまう。 子供たちも寄ってきて深夜の捕り物となった。 翌る日曜日も一日中子猫の鳴き声がしていた。 月曜日になれば工場が開くから何とかするだろう。 月曜日以降猫の鳴き声が消えた。 どこかに逃げ帰ったか、誰かに引き取られたか。 それとも工場の人が連れ帰ったか。 そのまま猫のことは忘れていた。
今朝、工場の社員と話す機会があった。 「以前、ここに猫がいなかった?」 「あれ、お宅の猫?」 「違うけど」 「うちの運転手が轢いちゃった…」 「ゲッ!」 まさか車の下に猫がいるとは思いもよらなかったのだろう。 どこから来た子猫か知らないが、野良猫として生き抜いていく逞しさはみられなかったし、与えた餌を食べる元気もなかった。 もともと身体は弱っていたのだ。 薄命だった子猫。 しかし、その最期は聞かされない方がよかったようだ。
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