応募で当たった日帰りバス旅行一日ゆっくりできた。
バスは中央高速の談合坂SAでトイレ休憩となった。 休憩が終わりバスは高速道路に戻った。 急にバスが止まり、添乗員が外に飛び出した。 そして先ほどのSAに向かって走り出した。 高速道路を若い女性が髪を振り乱して走る。 走る、懸命に走る。 乗客は何事かと総立ちで後を振り返る。 「誰か置き忘れたのかしら?」 「人数は勘定してましたよ」 「まだあそこに姿が見えるわ」 バスも路肩をゆっくりとバックする。 高速をバックするバスも初めてだ。 SAに仕事用のカバンを置き忘れたらしい。 添乗員の姿が見えなくなった。 暫くしてこちらに向かって走る添乗員の姿が見えた。 上着を脱いで猛ダッシュ。 バスに乗り込むや床にへたり込んだ。 肩にはしっかりと大きなカバンが下がっていた。 カバンの中には客から預かった金や書類が入っているのだろう。 期せずして車内から拍手が巻き起こった。 添乗員は汗と涙が入り入り交じった顔をタオルで覆っている。 添乗員は泣いていた。 しばらくの後、 「…どうも…、すみま、せん…でした」 気を取り直してマイクを手に言った。 「私、添乗の仕事今日で2週間目なんです」 入社して2週間、添乗も14回目なのだそうだ。 「若いんだからしっかり頑張れ」と激励するうしろのおばちゃん。 「若いから許せるのよね。私みたいな年寄りだったら『何いってんだこのババァ』よね」ともうひとりのうしろのおばさん。 何はともあれ失敗はつきもの。 失敗が人間を大きく成長させる。 「忘れ物はありませんか?」 添乗員は自分に言い聞かせるように乗客が乗降するたびに言っていた。
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